579 俳句に意味はありません


よく「この俳句はどういう意味ですか?」と聞かれることがあります
特に、俳句をやったことの無い人や、始めたばかりの人に聞かれます

俳句の中には、含み隠された内容や、メッセージのようなものがあると思われているようですが、基本的に、そのような物はありません
俳句は何らかの隠された内容を伝えるものではないですし、伝えるために作られている訳ではありません

ですから、鑑賞する時は、その俳句の「意味」を知ろうとするのではなく、その俳句を作った時の「作者の心」を感じましょう

逆に、作る時は「何か意味を伝えよう」とするのではなく、「自分のその時の気持ちが伝わるか」を考えて作ります

そういう意味では、俳句は絵や音楽に近いとのかもしれません
例えば「モナリザ」の絵は、「微笑んだ女性が描かれている」だけに過ぎません
絵自体に意味はないのですが、鑑賞者は「作者がそこに込めた何か」に思いを馳せます

この微笑にはどのような意味があるのか?この女性は誰なのか?ダ・ヴィンチはどのような思いでこれを描いたのか?
鑑賞者はそのようにして、様々な抽象的概念に思いを馳せることができるから、作品の中に没入していけます
そうすることで、心の中には言葉にできないものが沸き立ちます



例えば、この句

露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す

この句の意味は何なのか、と問われても誰も答えられません
作者に尋ねてみても、その時の背景は聞けても、意味は聞けない筈です

ワシコフとは誰か?何故ザクロを打ち落としたのか?戦中を生きた作者はこの景色を見て何を思ったのか?
鑑賞者はただ、そのときの作者の心に近づくために、作品に思いを馳せるだけです
人によっては悲しい感情が沸くかもしれません
怖さを感じるかもしれません
もしかすると、作者がそこに込めた思いと、自分の感覚が混ざることで、誰も気が付かなかった別の解釈が生まれることがあるかもしれません


俳句には意味はありません
鑑賞する側は、ここを理解しておかないと
「あぁ、俳句は分からない」「まったく意味が分からない、もう嫌だ」となってしまいます

作る側にしても、ここを理解せずに「何か深い意味を伝えよう」と思ってしまうと
「あぁ、全然意味が伝わらない。もう嫌だ」となってしまうでしょう